令和7年6月2日、第3回天草市議会定例会で馬場市長が述べた令和7年度施政方針を紹介します。
目次
はじめに
令和7年度の重点施策
施策1 住み慣れた地域での安心安全な暮らしを守る
施策2 活力あるまちづくりの推進
施策3 持続可能な経済循環の実現
施策4 未来を担う人材の育成
施策5 行政運営体制の強化
おわりに
はじめに
令和7年第3回天草市議会定例会に提出しております諸議案の説明に先立ち、市政運営に対する私の所信の一端を申し上げます。
私は、本年2月の市長選挙におきまして、市民の皆様のご支持を賜り、引き続き、市政の舵取りを担わせていただくこととなりました。ご信任いただいたことに改めて感謝するとともに、その負託にお応えすることができるよう、全力で市政運営に邁進してまいります。
2期目の出馬にあたり、私は、「天草版地方創生への挑戦」をスローガンに掲げました。
天草市は、平成18年に2市8町が合併し、行政運営の効率化と財政基盤の強化を図りながら、少子化・高齢化社会に対応した新市のまちづくりを進めてきました。
私も、市長就任以来、あましんスタジアムや御所浦恐竜の島博物館の整備、子育て支援の強化や企業誘致などに注力し、持続可能な地域づくりを目指して市政運営に努めてまいりました。
しかしながら、歯止めのかからない少子高齢化に伴う加速度的な人口減少の進行は、国力の低下、そして特にその影響の大きい我々地方にとって、より深刻な活力の低下と集落の存続をも難しくさせる事態をもたらしています。
かつて右肩あがりに成長していた時代、国は「護送船団方式」と言われるように、全国一律の制度を財政出動等で担保し導入させてきました。しかし、日本社会全体が縮小していく中、国は地方分権を押し進め、地方創生の名のもとDXやふるさと納税を推進し、自ら考えチャレンジする自治体を後押しする方向にシフトしました。そして、さらにこれからの10年では、「関係人口」を中心とした循環型の人材交流、新技術の徹底活用と社会実装、地域の多様なステークホルダーの連携等を促進し、地方のポテンシャルを最大限に引き出して、日本の活力を取り戻そうとしています。
また、社会構造や人々の価値観も大きく変容しています。デジタル技術の急速な進展や多様性の尊重を背景に、人々の働き方や経済活動、教育の在り方などは変化を続け、地方での暮らしに価値を見出す人も多く存在します。
ここに、天草の未来に向けたチャンスがあると、私は考えています。
2市8町が合併した天草市は、広大な市域の中にさまざまな資源と課題を併せ持ち、その姿は、地方創生を目指す日本の縮図であると言えます。市民の皆様との協働に加え、市外のさまざまな地域や人々との交流を拡大し、まちの活性化と新たな価値の創造、そして、人口減少社会に適応する暮らしの基盤の構築に向け、本市ならではの地方創生に挑戦する。そのような思いを胸に、2期目をスタートさせていただきました。
今年度は、「第3次天草市総合計画前期基本計画」の仕上げの年となります。
引き続き、本計画に掲げた取組の推進を図るとともに、次年度からの施策を盛り込んだ「後期基本計画」を策定し、ただいま述べました地方創生の深化を目指して、各種の施策を実行してまいります。また、直ちに取り組むべき施策等については、庁内の推進体制の構築や、いわゆる肉付予算として編成いたしました今般の補正予算への計上等により、スピード感を持って進めてまいります。
それでは、総合計画の進捗と、私が新たに掲げたマニフェストを踏まえて重点化した今年度の施策について、順次ご説明申し上げます。
施策1 住み慣れた地域での安心安全な暮らしを守る
まずは、住み慣れた地域での安心安全な暮らしを守るための施策として、福祉体制の強化と、公共交通など生活に欠かせないサービスやインフラ機能の充実に向けた取組でございます。
地域の福祉体制については、これまで関係機関と連携し、社会福祉法に基づく「重層的支援体制」の整備に向けた準備をいち早く進めてまいりました。今年度から、この体制による支援の本格運用に取り組み、高齢・障がい・子育てなどの分野に捉われず、近年の複雑化・複合化した市民の生活課題に係る相談を包括的に受け止め、継続的な伴走支援を実施してまいります。
また、人口減少に伴い、公共交通の縮小、地域の商店や医療機関の廃業など、市民の日常生活に必要不可欠なサービスの維持についても、さまざまな課題が顕在化しております。
その解決に向け実効性の高い対策を講じていくため、まずは、抜本的な交通再編に向け、関係機関との協議を早急に進めてまいります。具体的には、市内各地のコミュニティ交通について、AIオンデマンド乗合タクシーなど、地域の実情に合わせた交通サービスを導入してまいります。その上で、路線バスについては、本渡地域と各地域を結ぶ幹線の充実を図り、市民の皆様が、住み慣れた地域で安心して移動できる環境の整備とともに、天草への来訪者が、本市を周遊し楽しむことができる二次交通としての機能も発揮できるよう、市内全域の交通利便性の向上を図ってまいります。
近隣に店舗がない地域や交通が不便な地域の買い物支援については、関係部署が連携した会議体を設置し、地域の施設を活用した買い物拠点の整備や、移動販売等の民間サービスやデジタル技術の活用等について調査検討を進め、地域の実情に応じた方策を講じてまいります。
また、本年3月より、病院受診が困難な方の通院の負担軽減を図るため、市立河浦病院において、看護師が地域に出向き、患者と病院にいる医師とを通信機器で繋いで診察を行うオンライン診療を開始しました。今後、この取組の効果を検証しながら、対象地区の拡大や内容の充実を図り、市民の皆様に寄り添った医療提供体制の構築を進めてまいります。
このほか、地域の防災力の向上に向け、市民生活に密着した道路・河川の整備や空き家対策を進めるとともに、非常食や簡易トイレなどの防災備蓄品の充実や、発災時に地域の主力となって活動する消防団員の活動服の整備等を行ってまいります。
さらに、携帯電話等不感エリアの解消に向けた通信基地局の整備、水道及び下水道事業における施設及び管路の耐震化対策などに取り組み、災害に強く、機能的かつ持続可能な社会インフラ施設の整備を進めてまいります。
施策2 活力あるまちづくりの推進
次に、活力あるまちづくりに向けた施策として、それぞれの特色を活かした地域の魅力向上と、市外との交流人口の拡大に向けた取組の推進でございます。
県下一の市域を有する本市には、美しい自然や豊富な食、多様な歴史や伝統文化など、数多くの地域資源が存在しています。しかしながら、加速度的な少子化や、都市部への若者の流出による担い手の減少により、地域資源を守り伝えていく、地域コミュニティの存続そのものが困難になってきています。
しかし、あらためて人材を掘り起こし、そして呼び込み、それぞれが持つ多様な魅力を活かして各地が賑わい、結果として市全体が浮揚する。その未来への挑戦こそが、私が新たなマニフェストに掲げた「天草版地方創生」の肝であります。
そのために、まずは各地域の核となる支所の特色ある取組を推進するため、庁内に私が本部長を務める「天草版地方創生推進本部」を設置し、強力に支所の取組をバックアップしてまいります。そして新たに、「地域おこし協力隊インターン制度」や「集落支援員制度」等を活用し、地域の魅力向上に貢献する人材の導入・確保を進めてまいります。
また、そのような地域の賑わいを効果的に発信して関係人口の拡大を図り、ひいては、移住定住など、本市への流入人口の増大に繋ぐことも重要となります。
このため、観光政策においては、観光振興アクションプランの策定によりプロモーション戦略を深化させ、福岡や長崎など、近隣各県をはじめとした国内の旅行需要はもとより、近年のインバウンド需要を捉えた国外からの誘客促進にも積極的に取り組んでまいります。
また、国立公園指定70周年に向け、熊本県や上天草市、苓北町と連携した観光推進事業に取り組むとともに、本市独自のPR動画や、地域の魅力を見直す契機ともなるインタープリテーションガイドブックを作成し、美しい自然と文化の薫る、「選ばれる観光地 天草」を目指してまいります。
さらに、本年5月に来館者数が3万人を突破した御所浦恐竜の島博物館では、ティラノサウルス展の開催や、アニメコンテンツを活用したプロモーション活動を展開し、資源豊富な魅力ある島へのさらなる誘客を促進してまいります。
スポーツコミッションを中心とした各種大会・合宿等の誘致活動については、あましんスタジアムを利用した団体の宿泊等による昨年度の直接的な経済効果は、年間約4億2千万円と試算され、観戦等で訪れた方々を含めた実際の効果額は、これを大きく上回るものとなります。今年度より関係する補助制度を拡充し、取組を強化してまいります。
また、市民の皆様の利便性をさらに向上させるとともに、スポーツ交流の活発化による経済効果の拡大を目指した屋内多目的広場の整備についても、引き続き検討を進めてまいります。
そして、今議会に工事請負契約の締結を上程しております「天草戦国ミュージアム及び倉岳支所」の建設、本渡港及び牛深港周辺における民間活力導入可能性調査や都市計画マスタープランの見直しなど、各地の交流・周遊拠点の整備に向けた取組を着実に進め、これらを核とした賑わいのあるまちづくりへの展開を図ってまいります。
施策3 持続可能な経済循環の実現
次に、持続可能な経済循環の実現を目指すための施策として、地場産業の振興と、天草産品のブランディングや環境政策の推進でございます。
農林水産業では、従事者の減少や高齢化の進行、温暖化に伴う自然環境の変化等により、農業・林業・漁業における経営体の維持にさまざまな課題が生じています。
本市の基幹産業である第1次産業を守っていくため、新規就業者の確保対策や就業環境の改善、スマート設備の導入支援や生産基盤の整備など、引き続き、担い手の確保と経営の安定化に資する施策に取り組んでまいります。
その一環として、農業では、農業者が共同で管理する農道の法面などへの防草シート設置や、草刈り等に係る共同作業を下支えする本市独自の補助制度を創設し、農業施設の保全管理を支援するとともに、離農や耕作放棄地の拡大を抑制し、農村環境の維持に尽力してまいります。併せて、果樹園でのドローンによる農薬散布等、栽培上で支障となる樹木や、有害鳥獣や病害虫の温床となる放任果樹の伐採に係る実証事業などに取り組み、柑橘類の栽培環境の整備を支援してまいります。
漁業では、長年、漁業者と取り組んできた藻場の再生活動が実を結び、令和5年度に設立した「天草市ブルーカーボン推進協議会」の取組を経て、本年3月に、Jブルークレジット制度における県内初の認証を取得しました。引き続き、関係機関と連携して水産資源の維持・回復に努め、持続可能な水産業の確立を目指してまいります。
また、魚類養殖漁業に多大な被害を及ぼしている赤潮についても、グループ検鏡やドローン等による監視体制の強化、繋留施設や大型生け簀の整備等、赤潮被害の低減に向けた事業者の取組を支援するとともに、国や県と連携し、発生メカニズムの解明や発生抑制対策に尽力してまいります。
林業では、令和5年度より取り組んでまいりました施業や森林分布等に関する実態調査が概ね完了し、本市に多く生育する広葉樹が十分に利用されていないことや、ヒノキ商品等の販路不足、林業従事者の減少など、把握された課題の解決に向け検討を進めております。
今後、市内の林業経営者と連携し、森林環境譲与税等を活用しながら、広葉樹材を利用した商品の開発や天草ヒノキの地域内外への流通拡大に取り組み、林業経営の安定化と、災害防止や自然環境の保護といった森林の有する多面的機能の保全を目指して、林業の6次産業化を推進してまいります。
また、不足する担い手の確保のため、新たに、林業に関心のある都市部の若者等を地域おこし協力隊に任命し、天草における自伐型林業の普及を進めるとともに、福連木子守唄公園の遊具の木質化や、木育体験活動を行う団体への支援等により、子どもたちの木育環境の充実を図ってまいります。
天草産品のブランド化や地産地消・地産他消の推進については、引き続き、さまざまな機会を捉えたPR活動や天草のさりーの普及を推進するとともに、新たに「クラウドファンディング型ふるさと応援寄附活用事業」を創設し、地場産品の開発や市内事業者の設備投資を促進してまいります。
また、現在開催されております「2025大阪・関西万博」において、今般、和歌山県の紀州の梅を天草の塩で漬け込む「万博漬け」が企画され、本市で生産される塩が活用されることとなりました。日本での万博開催は、2005年の愛知万博以来、実に20年ぶりであり、1日に10万人以上の来場者が訪れる、まさに世界的博覧会であります。国内外から注目される貴重なイベントで本市の生産品が取り上げられることは、天草の絶好のプロモーションの機会となりますので、来る6月6日に開催されるこの「万博漬け」のセレモニーに私自ら登壇し、しっかりと、天草ブランドを発信してまいります。
このほか、先に述べましたカーボンクレジット等による脱炭素の取組や、通詞島沖のイルカの生態調査を通した環境学習の推進、私たちの日常生活や経済活動における、ごみの資源化・減量化対策やエネルギーマネジメントの推進などにより、持続可能な社会づくりと経済循環の両立を目指してまいります。
施策4 未来を担う人材の育成
次に、天草の未来を担う人材の育成を目指す施策として、子育て支援や教育環境の充実と、地域や地場産業を担う多様な人材の確保に向けた取組の推進でございます。
子育て支援については、本年4月より新たに「こども家庭課」を設置し、複雑化する子育ての悩みや課題に対する相談支援体制を強化しました。併せて、保育所等における医療的ケア児の受入体制の整備等により、地域の子育て環境の維持と充実を図ってまいります。
さらに、令和6年度よりスタートしました、3歳未満児保育料の無償化や入学等祝い金の支給を継続するとともに、長引く物価高騰を踏まえ、学校給食費等に係る国の支援策を注視しつつ、子育て世帯の経済的負担の軽減に努めてまいります。
学校教育については、児童生徒用タブレットの一斉更新や、令和6年度に設置を完了した中学校体育館に続く小学校体育館への空調設備設置など、子どもたちの学習環境の向上に資する整備を進めるとともに、学校部活動の円滑な地域展開に向けた指導者の確保と育成、また、教室不足や老朽化等の課題を抱える本渡北小学校の改築を見据えた調査や計画の策定に取り組んでまいります。
さらに、世界文化遺産「天草の﨑津集落」や御所浦の恐竜化石、通詞島沖のイルカなど、総合的な学習の時間を活用した本市特有の歴史・自然に関する学びなどにより、豊かなフィールドを活かした体験学習の充実を図り、子どもたちの郷土愛と生きる力を育んでまいります。
このほか、少子化の進行により、県立高校についても、熊本市外の学校を中心に定員割れが続いており、現在、熊本県において高校のあり方の検討が進められています。高校は、小中学校の児童生徒や地域にとって重要な存在であり、身近な地域に可能な限り存続させることができるよう、地元自治体としても対策を講じていく必要があります。本市におきましても、市内5つの高校、熊本県、そして地域と連携し、各校の特色に応じた高校の魅力化を図り、地域の教育環境の維持と充実に向けた取組を進めてまいります。
また、若者や働く世代が減少し、地場産業や地域の担い手不足が深刻化しています。全国的な人手不足の中、市内の中小企業等における人材育成と雇用の安定化を図るため、従業員の資格取得や技能講習の受講等を支援する事業者を対象に、その経費の一部を助成する制度を創設し、民間事業所における人材確保の取組を後押ししてまいります。
そのほか、引き続き、地場企業の魅力発信やデジタルアートの島創造事業、あまくさ未来創造スクールの開催等に取り組み、若者の地元定着やUIJターンの促進、地域をリードする人材の育成を進めてまいります。併せて、外国人労働者の雇用に関する課題への対応や、地域おこし協力隊制度の積極的な活用により、多様な人材の確保に取り組んでまいります。
施策5 行政運営体制の強化
最後に、行政運営体制の強化に向けた施策として、行財政改革と官民連携によるまちづくりの推進でございます。
人口減少や少子高齢化が進む中、本市ならではの地方創生を進めていくためには、効率的かつ効果的な事業の実施と、官民連携による、まちづくりや社会課題への対応が非常に重要であると考えております。
そのため、事業のスクラップ&ビルドの徹底や、特定財源の積極的な確保による財政基盤の強化、デジタル技術の活用による行政サービスの向上と業務の効率化、分野横断的に政策を遂行する組織力と職員力の向上を目指し、今年度、「第3次天草市行政経営改革大綱」を策定いたします。
また、ふるさと納税制度の積極的な活用など、行政も自ら稼ぐ意識を持ちながら、市民の皆様や民間事業者とのより一層の連携・協働を推進し、地域と行政が一体となった魅力あるまちづくりを進めてまいります。
おわりに
以上、令和7年度の主な施策について申し上げてまいりました。
このほかにも、第3次天草市総合計画に掲げる各種の取組を着実に進め、まちの将来像「ともにつながり 幸せ実感 宝の島“天草”」の実現に向け、市民目線に立ち、職員と一丸となって市政運営に尽力してまいります。
引き続き、議員の皆様、並びに市民の皆様のご理解とご協力を賜りますよう心からお願い申し上げ、私の施政方針といたします。